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其はいにしえのアイギュプトスの御霊にして

The Uncanny/Denis Héroux (邦題:地獄のキャッツ・アイ)

1977年、モントリオールにて。作家のウィルバーは出版主のフランクの元を訪ねていた。彼の新しい小説―ネコの邪悪性についての本を紹介するためだ。ウィルバーはネコとは超自然的な存在であり、悪魔の顔を持っていると語る。…そうして彼はネコにまつわる3つの怪談をフランクに語る。これは実話である、と断った上で…


case2. 1975年 ケベック州にて失踪した少女・アンジェラについてのレポート

不幸な飛行機事故によって両親を失った少女・ルーシーはケベック州に住む伯母・ジョーン夫妻の家に引き取られることとなった。ルーシーの荷物はたったの2つ。ひとつは母の遺した黒魔術などの数々のオカルト本。もうひとつは彼女の友達―黒猫のウェリントンだった。ジョーンの娘・アンジェラ―ルーシーにとっては従姉妹に当たる―はあまりルーシーを歓迎していないようだ。亡き母が使っていた部屋に案内されたルーシーは、バスケットからウェリントンを抱え上げ、話しかける。
「どう、ウェリントン?」
黒猫はニャオン、と短く返すのみ。
「気に入った、ですって」
「ネコが話すわけ無いわ」
「私はずっと一緒に居たからウェリントンの言葉が分かるの」
…気に入らない。アンジェラはこの幼い従姉妹にイラついて仕方がなかった。

そしてそれはジョーンも同じだった。本心ではルーシーを好ましく思っていないのだ。さらに悪いことに、ジョーンはネコが大嫌いだった。だがあの黒猫は両親を失ったルーシーのたったひとつの心の支えであり、ルーシーからウェリントンを取り上げてはいけない、とルーシーを紹介したソーシャルワーカーから注意される。そんなことをすれば、ルーシーの心は壊れてしまう、と。
黒猫のことはしぶしぶ受け入れたジョーンであったが、ルーシーの部屋で見つけた黒魔術の本については看過できなかった。亡き妹の趣味に呆れながらもそれを処分しようとするジョーン。だがそれすらも、母の形見だからと主張するルーシーに阻まれる。ジョーンのルーシーに対する不信感は収まるどころかますます強くなっていく…

だがアンジェラのほうは(ルーシーはともかく)ウェリントンを歓迎していた。実はアンジェラはずっとネコを飼いたがっていたのだ。動物嫌いのジョーンのせいで今までは飼えなかったのに、突然やってきたルーシーはそれが許されている。
「ママ、なんで私はダメなのにルーシーがウェリントンを飼う事はゆるしたの?」
「ルーシーにはパパもママもいないからよ。あなたはどっちもいるでしょ」
ムッとしたアンジェラは反論する。
「じゃあ私もパパとママが飛行機事故でいなくなったら猫が飼えるのっ!?」
そんなアンジェラの思惑をよそに、ルーシーは実に楽しそうにウェリントンと戯れている。我慢できなくなったアンジェラはルーシーのもとへ向かう。
「さあ、次は私がウェリントンと遊ぶ番よ」
「…誰があなたの番だって言ったの?」
ルーシーの言葉にカチンと来たアンジェラはルーシーを立たせ、文字通り見下しながら言った。
「ほら、私はあなたより大きいわ。自分より大きい者の言葉には従うものよ!!」
そう言ってアンジェラは無理やりウェリントンを奪い取る。だがウェリントンはアンジェラには全く懐かず、すぐにルーシーのもとへと走って行ってしまった。
「ウェリントンは私の友達。あなたのじゃないわ…ウェリントンがそう言ってる」

また別のある日。アンジェラとルーシーは離れの小屋でウェリントンの絵を描いていた。先に描き上がったルーシーは伯父さんに見せに行く、と言って小屋を出て行ってしまう。残ったアンジェラはネコと遊ぶチャンスと思ってウェリントンに近づくが、ウェリントンは相変わらずアンジェラを嫌っているようで逃げるばかり。狭い小屋の中で動き回っていたアンジェラは、うっかり赤いインクを床に落としてしまう。そして間が悪いことに、ジョーンがルーシーをつれて小屋に戻ってきてしまった。アンジェラは思わず叫ぶ。
「ママ、見て!ウェリントンがやったの!」
その言葉を信じたジョーンはルーシーを叱り付ける。
「ルーシー、ちゃんとネコを見てられないのであれば、出て行ってもらいますからね!ほら、掃除しなさい!」

その日から、アンジェラのルーシーいじめはますますエスカレートしていった。ある日、ルーシーが庭でウェリントンと遊んでいるのを窓から見ていたアンジェラは、ラジコン飛行機をルーシーに向けて飛ばした。ルーシーは飛行機を異常に怖がる。理由は、言うまでも無いだろう。ルーシーは執拗に自分に向けて飛んでくる飛行機を避けようと地面に蹲り、ついに全身が泥だらけになってしまう。そんなルーシーをジョーンが見過ごすわけが無かった。
「なにがあったの、ルーシー?」
「あのね…」「ルーシーはネコと遊んでてそのまま泥に突っ込んだのよ!わたし窓から見てたんだから!」
違う、と否定するルーシーをジョーンは信用しなかった。そしてこの出来事が決定的となり、ジョーンは決心する。
ただでさえルーシーはネコと遊んでばかりで家事を手伝おうとしない。ジョーンは夫に頼む。ウェリントンを街に捨ててくるようにと。

翌日。ルーシーが目覚めるとウェリントンがいない。青ざめてウェリントンを捜すルーシーに、アンジェラは楽しそうに話しかけた。
「知らないの?ウェリントンはとてもいい所に行ったのよ!今朝パパが肉屋に売ったの―イヌの餌にするためにね!」
「うそ!私信じない!ウェリントンは帰ってくるんだから!」
ショックで寝込むルーシー。そしてルーシーが寝込んでいる間にジョーンはあろうことかルーシーの魔術書を持ち出し、そして全て暖炉にくべて焼いてしまった―ルーシーが大切にしていた、母の写真と一緒に。

ところがその夜。ルーシーは部屋の外からニャアニャアと声がすることに気がついて目が覚めた。部屋の外にいたのは―ウェリントンだ!なんとか戻ってきたんだ!喜ぶルーシー。だが、その表情はすぐに曇ってしまう。
「アンジェラに見つかっちゃう…伯母さんに告げ口されたら…ウェリントン、わたしどうすればいいんだろう?」
ウェリントンは枕の下に走り寄り、一冊の本を鼻で示す。それはルーシーが隠していた最後の母の形見、手書きの魔道書だった。ルーシーは魔道書の表紙裏にあったペンダントを首にかけ、ウェリントンとともに魔道書と蝋燭を持って離れの小屋へと向かった。
「そうね、ウェリントン。やってみようか…」
目が、据わっていた。

一方アンジェラは白いナイトガウンに着替えて寝るところだった。だがふと窓の外を見ると、離れの小屋が妙に明るいことに気付く。電気とは違う明るさのようだが…そしてルーシーの部屋を見てみると、彼女がいない。いよいよおかしいと考え小屋へ向かうと、なんとウェリントンがそこにいた。その一方でルーシーが蝋燭の明かりの下、床にチョークで魔方陣のようなものを描いている。
「なにをしているのかしら?」
ルーシーは答えない。ただ魔方陣を描き続けるだけだ。
「ママが帰ってきたらトラブルになるわ。掃除したほうがいいと思うけど?」
魔方陣を描き終えたルーシーは椅子に座って魔道書を広げ、ようやく口を開いた。
「今から儀式を行うところなの。別に見ててもいいけど、絶対に円の中に入らないでね、危ないから」
それは紛れもない真実だった。だがアンジェラはそれを挑発と受け取ったのか、魔方陣に踏み込む。
「これでどう?」
―それを見たルーシーは一瞬ウェリントンと目配せした後、静かに呪文を唱え始めた。

-aglog tacchecrom oliaer aerial teilimboko-
意味を成さない文字の羅列。だが呪文の最初の部分が読み上げられ、なにか恐ろしいものを感じたアンジェラは逃げ出そうとする…が、なんと魔方陣から逃げられなくなっていることに気付く。
「ルーシー!た、助けて…おねがい…!」
慌てるアンジェラを尻目に、ルーシーは呪文を続ける。そして呪文の文言に「アンジェラ」という響きを確かに聞いた。
-otinotino schavlere shinochinos breelwe ngaera Angera notinos vleawry geila taino aera ella-
すると、不思議なことが起こり始める。呪文に呼応するように、アンジェラの体が縮んでいくのだ!
「う、動けない…足が、痺れて…ねえ、ルーシー…!」
もはや、蝋燭の燭台ほどの大きさしかなくなったアンジェラ。それを無視するかのように、ルーシーは呪文の最後の部分を唱え始めた。
-ainos bllaia vla nossia ossia saia aia a!-
呪文が終わる。アンジェラはもはや蝋燭などよりも小さくなっていた。走りよってきたウェリントンの巨大な唸り声が不気味に響く。
「ルーシー…もとの大きさに戻して…ママには何も言わない、約束するから…おねがい、ルーシー…」
だが、ルーシーは答えない。代わりに床に屈みこんで、文字通り見下しながら響き渡る声で言った。
「もうあなたはなによりもちいさいわ。ねえアンジェラ、なんであなたはネズミよりちいさいの?」
ネズミ、という言葉にウェリントンが反応した。一瞬でその意味を理解し、逃げ出すアンジェラ。しかしウェリントンの腕が行く手を阻み、反動で燭台にぶつかる。急いでカウチの下に逃げ込むが、ウェリントンが追いかけてくる。背後からはルーシーの大きな手が自分を探して蠢いている。
だが、ネズミ捕りに嵌りながら逃げ続けたアンジェラはひとつの武器を見つけた。先の尖った絵筆だ。逃げられないと悟ったアンジェラは絵筆を手に黒毛の怪物に立ち向かう。そしてネコの眉間を衝いて追い払い―致命的なミスを犯した。カウチの下から出て、ルーシーに助けを求めたのだ。
「ルーシー…?ごめんなさい、ウェリントンを傷つけちゃった…そんなつもりはなかったんだけど…あの、怒ってるかな…?」
その瞬間。怒りに燃えるウェリントンは彼女のナイトガウンの裾を後ろから踏みつけた。地面に縫い付けられた形になり、全く動けないアンジェラ。そのとき、外から意外な人物の声が聞こえた。
「アンジェラ?中にいるの?」
それは、離れの明かりがついていることに気付いたジョーンだった。もはや時間が残っていないことを悟ったルーシーは立ち上がり、アンジェラを見下ろす。ゆっくりと片足を持ち上げ…
「ル、ルーシー!やめて!いや!いやああああ!!!」
…アンジェラの上に下ろした。

小屋に入ってきたジョーンが見たのはルーシーだけだった。そして入ってくるなり、ルーシーの行為を責める。
「ルーシー、蝋燭を持ち出して床にチョークで落書きしてなにをやっているの!すぐに片付けなさい!それになに、その足元の…」
そこまで言って、ジョーンの怒りはさらに高まる。
「ルーシー!!ここでお絵かきするときは十分気をつけなさいって前にいったでしょ!」
そう言ってルーシーの足元の赤いインクを拭き取る。
「もう汚いったらないわ…」
拭き取ったものをゴミ箱に捨て、ルーシーに向き直って言う。
「なんでアンジェラみたく良い子にできないの!?あの子なら絶対こんなことしないのに!(She never puts a foot wrong!)」
ルーシーは答えない。代わりにウェリントンが眉間から血を流しながら、一言「ニャア」と鳴いた…

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