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弱いけど強い

ハートレス・ハート/七尾 あきら
『何者かに追われる少女メイが不気味な墓地で出会ったのは、化物を狩る美しい少年神スサノオだった。彼はメイを一目で生き霊と見ぬき、剥き出しの魂のままでは、霊的エネルギーを消費して消えてしまうぞと告げる。ところがメイは記憶を失っていて、自分が誰の身体に戻るべきか分からないのだ!メイは4センチ6ミリの省エネサイズに身体を縮められ、スサノオの肩に掴まって自分探しに乗り出すが…魂が消滅するまで、あと3日!』
(以上カバー背面あらすじより抜粋)

2002年刊。「涼宮ハルヒの憂鬱」の初版が発行されたのが2003年なのでその少し前。私の感覚では、この時期はライトノベルに対する世間の認識が変化していた時代であり、ライトノベルが急速に版図を拡大すると共に、実験小説的なものも多く書店に並んでいた覚えがある。そんなこんなで近所の書店がライトノベルコーナーを拡張したときにたまたまま目についたのがこの本。確か、小説の帯に4cm6mm原寸大メイのシルエットが描いてあった。約4cmでいいだろうに.6って!その帯は既に紛失してしまったが、.6の妙なこだわりと魂の省エネのために肉体をサイズダウンするというコンセプトに惹かれて購入した。

話としては、破天荒なダークヒーローと気弱で常識的な縮小娘の凸凹コンビが主役のバトルものになるだろうか。圧倒的な強さを持ち頭の回転もいい古き神スサノオは自分に敵意を持つ相手の霊気しか食べない偏食体質、一方のメイは潜在的な霊力こそ強大なものの操ることは出来ない気弱で内気な少女。生き霊のメイを身体に戻してさらなる力を取り戻させ、自分と戦わせることで最高のご馳走であるメイを喰う、という点で両者の利害が一致(?)し、周囲の妖怪達を巻き込みながらメイの身体を捜す…というのが大筋の流れ。精緻な描写が繰り返される日常パートに比してバトルシーンは臨場感・スピード感があり、緩急のある文体が特徴的。

この小説、とにかく登場人物の性格が個性的というかかなり癖があり、登場する妖怪のほとんどはメイのことを食料くらいにしか思っていない。おまけに準主人公格の猫娘・ミコも隙あらばメイを始末しようとするし、逆に敵側はメイの身体を単なる交渉の道具として扱う始末。スサノオを含め、周囲に完全な味方がいない状態でメイは唯一の常識人として多く傍観者の立場をとる。後半になると、ほんの少しだけ状況が変化するのだが。
物語の大部分は縮小化されたメイの視点で進行する。読者は自身を半透明な主人公であるメイに投影し、その眼を通じてスサノオの肩から物語を眺めているような感覚を覚える。いわば、縮小娘の視点を擬似的に体感できる構造になっているというわけ。小さくなった者の視点で進行する物語は数多くあるが、ここまで写実的な描写で徹頭徹尾書き上げているものはかなり稀。ただし、メイを含めた霊や妖怪達は通常の人間には見えない設定のようで、舞台は現代日本であるもののそこに生活する人や生物と関わる事が無いのが残念。

sw的におすすめしたいシーンのひとつはやはり縮小描写。メイは絨毯の部屋で縮身薬を飲むことになるのだが、風景が大きくなるのではなく絨毯が太く育っていく描写に終始している点が良い。縮小完了後に見た巨大な蛇女神の描写も重々しくてマル。イラストがあればなおよかったが…
また前述の通り、メイはスサノオの肩の上に保護されている状態で物語が進行するが、4章において離れ離れになった際、たった一人でネズミや虫を模した魑魅魍魎に襲われるシーンがある。結局は駆けつけたミコによって助け出されるのだが、気を失ったメイは治療と称してミコに全身を舐められまくる…ゾクゾクする。

惜しむらくは小説自体の短さ。登場人物だけで10人以上いるのに、たった250ページ程度しかないため人物像の描写を除くと一人当たりはほんの短いエピソードしかない。どいつもこいつも魅力的な性格をしているのにこれではもったいない。この傾向は後半になるにつれ強くなり、6章などはスピード感がありすぎてめまいがしそうだ。
あとがきや作者のサイトを見る限り既に2巻はできているようだが、2013年現在においても刊行の予定はなさそう。この小説、もしかしなくても売れなかったのだろうか。まあ、メイの縮小化は終盤で解かれるので、2巻が出るとしてももうsw物ではなくなっているだろうけど。
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