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マイナーな王道

おねがい!マルチくん やぶうちっくユートピア② /やぶうち 優

「マイクロ・ろまんす」(点はハートマーク)

中学2年生の天野 守・通称モルは、同級生の天才科学者である匠くんのことが好き。みんなは匠くんのことを奇人とか変人とか言うけど、モルはそんな事は気にしない。席替えのときも隣に座ったり、理科なんて分からないのに同じ科学部に入ったりしたけど、匠くんが興味を示すのは発明についてのことばかり。今日だって、明日から夏休みだっていうのに匠くんは実験室にこもって変な機械を自作してる。でも明日からは毎日会えなくなるし、せめて今日くらいは一緒にいようとするモルだったが…

夏の日差しの下、知らない間に居眠りをしていたモルは、匠くんの声で目を覚ました。荷物を取ってくるから作った機械には触らないで待ってて、という匠くんの言葉には耳を貸さず、その機械―マイクロ光線を手に取るモル。懐中電灯のような形状のそれを握り締めた瞬間、うっかり機械のスイッチが入ってしまい強烈な光が放たれた。思わず手を離した途端、マイクロ光線は床に落ちて壊れてしまう。めまいを感じながらもなんとか立ち上がったモルが見たのは―遥かに遠くなった天井と、巨大な理科室の実験台だった。うそっ!?あたしほんとにちっちゃくなった!?
戻ってきた匠くんはモルの姿を見てビックリ。まだもとに戻す方法は開発してないし、明日からは実験室が使えなくなるし、おまけにモルはこんな小さな姿のままでは家に帰れないし…途方にくれるモルを手のひらにのせて、匠くんはこう言った。「そうだな…じゃとりあえずぼくの家に来るか?」

匠くんの胸ポケットに入れられて、大波のようなゆれに耐えながらも自宅の離れにある匠くんの部屋に連れてこられたモル。匠くんが部屋を出てった後、モルは机の端に腰掛けていろいろなことを考える。もとに戻らない限り、家にも帰れない。これからどうなるのか…考えていると、背中にモフモフした影が。匠くんの飼っているイヌだ!いつもはかわいいイヌなんだろうけど、こんな大きさだと逆にモルのほうがイヌのおもちゃだと思われてるみたい!イヌに舐められ、小突かれ、危うくつぶされそうになったところで匠くんが助けてくれたけど、今度はトイレに行きたくなってしまう。さすがに匠くんに手伝ってもらうわけにもいかないので、洋式トイレの端におろしてもらったけど…案の定、足を滑らせてトイレにボチャン!

サイアクなことばかりが続いてすっかり落ち込んでしまったモル。でも匠くんはやさしく気遣ってくれて、おまけにモルに必要なものをなんでも買ってくれるって!
夢にまで見た匠くんとのデート。可愛いお人形の服、素敵なドールハウス、紅茶のお風呂。そして傍にはいつも匠くんがいてくれる、夢のような日々。もうずっとちっちゃいままでもいいかな…
そんなことを考えていると、つけっぱなしだったテレビからニュースが流れてきた。テロップは『女子中学生 夏休み初日謎の失踪』、映っている写真は―モルだった。
『20日午後から行方不明の天野 守さん14歳ですが、捜索隊の必死の捜索もむなしく未だ消息はつかめておりません…』


ブログにエントリのある少女マンガが『天人果』だけだったので、ひとつそれっぽいのを載せようと探して見つけたのがこれ。『少女少年』のやぶうち優先生の短編集から王道的展開swストーリーを。
帯の作者コメントによれば、この短編集に収録されているマルチくんシリーズは少女マンガ版のドラえもんを意識しているということ。実際、マルチくんのキャラ設定は少しばかり癖があるけど、話の流れは便利な道具でトラブルが巻き起こるドラえもんの流れを汲んでいる。話がやや教育的で、結末が少しビターなことを除けばまさに少女マンガ版ドラえもんを体現しているといって良いだろう。
で、この『マイクロ・ろまんす』は、そのマルチくんシリーズのもとになった作品だそうだ。言うまでもないことだが、マイクロ光線は明らかにスモールライトを意識したパロディで、実はもう2つほどふしぎ道具のパロディが出てくる。まあ、スモールライトと違って、時間で効果が切れるということはないようだけど。

王道的swと表現したが、基本的に主人公の少女の視点でストーリーが組み立てられる少女マンガにおいて(※偏見です)、『小さくなって好きな男の子に世話をしてもらう』という展開は、読者層とも相まってかなり親和性がいい(※願望です)。小さくなったことで起こるトラブル、感じる不便、人形の服やドールハウスといった要素が少女マンガのsw作品でも良く見られるが、それらをすべて包含している作品にはなかなか出会えない。
この作品は雑誌『ちゃお』に掲載されていたものを収録したようで、そのせいか作品に流れる空気が非常にういういしく、清らかだ。セクシャル的な表現はほぼ完全に撤廃され、主人公の『女の子』と相手の『男の子』だけがくっきりと浮かび上がる。作品に登場する匠くんも、ほぼ完全な善人として描写されていて、そしてモルと匠くん以外には登場人物は現れない。このような閉鎖的な舞台装置の中で、ただモルの心情描写を通して物語が進行していく。私見で申し訳ないが、こういう点でも少女マンガとして王道的なのかな、とも思う。単に私がそういう作品を好きなだけかもしれない。

小さくなったモルの大きさは、大体15センチ前後か。縮小時は1コマで表現されるのだが、連続写真のような表現が用いられておりもとの身長からどの程度まで小さくなったかが実感しやすい(ちなみにこのコマに三角スケールを当ててモルの大きさを測ったら、約11cmだった)。小さくなって憧れの人の手のひらに乗り、胸ポケットに入れられる…という描写がモルの側からされているのもマル。以降、あらすじで書いたトラブルの数々も、さほど恐怖感やリアリティは感じないが、やぶうち先生の少女マンガタッチで可愛らしさが強調された描き方をされている。描写はほぼすべてが第三者視点によるもの。

ひとつだけ残念な点は、短編の読みきりのためかどうしても話が短いこと。約40ページの作品には詰め込みすぎともとれる展開を中だるみなく一気に読ませるのは作者の技量によるものだろうが、本音を言えばもうちょっと小さくなったモルのドタバタを見ていたかったかな。


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