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老婆の迷信 手のひらに卍

ラブリー百科事典~極東フェアリーテイルズ~ 第2巻/岡野史佳

桜井乃亜が転向してきたのは、オバケの天然記念物保護地域というとんでもない所だった!乃亜の隣の席には身長30センチの太郎丸くんが…。彼の正体って一体!?愉快痛快・まじかる★ファニー★ファンタジィ・第1巻!!
(以上、ラブリー百科事典(花とゆめコミックス)第1巻あらすじより抜粋)

桜井乃亜14歳。いまだかつて山の手線の内側しか知らなかった女。
「……」
9月3日、初めての通学路は、アスファルトじゃなかった。

あたしはこの秋から、山田村というド田舎の中学校に転校することになった。元はといえば、うちのお父さんがリストラの憂き目にあっちまったせいなんだけど…それにしても、よりによって年頃の娘がいる家族に対してこの仕打ちはどうよ。
とりあえず、コンビニはない。カフェも雑貨屋さんもない。携帯電話の電波はつながらない。気を取り直して中学校に行っても、ここの田舎者どもとは全く話が合わない。せめてかっこいい男の子がいれば…
転校初日襲い掛かる、数々の衝撃的な事実。…でも、それはまだ大人しいほうだったみたい。同じクラスの桃田かすみちゃんに案内されて自分の席についたんだけど、あたしはそのとき隣の席の椅子に何かがあるのに気付いた。
…男の子の人形?大きさは30センチくらいだけど、よく出来てる。

「……何?これ」
指でその人形?の頬をつつきながらかすみちゃんに聞いてみる。
「何って、だから…」

「もーーっ、痛いじゃないかっ、人のカオをなんだと思ってんだ!」

!?しゃ、しゃべった!なに、妖怪の類!?
…え、違う?妖精?白妖精(ライトエルフ)の王子・太郎丸だって?
「だってこの村妖怪ならいっぱいいるもん、珍しくもないし」
話に全くついていけない私を放っておいて、かすみちゃんは話を続ける。
どうやらこの村には元々妖怪が住んでいたけど、最近の環境変化とかでタチの悪い外国産の妖怪まで流れ込んできているとのこと。夜道には気をつけるように言われたけど…信じろって言うの、それ?

ところがその言いつけを守らずに夕暮れの山道を歩いていたら、木の上からホントにバケモノが襲い掛かってきた!しかもかすみちゃんが言ってたタチの悪いやつだったみたいで、そのまま動けないあたしの生きギモを喰らおうと…きゃー!!

「待てーーバケモノーーッ!ぼくが相手だぞーーー!!!」

ま、まさかヒーロー登場!?…と思いきや、現れたのはさっきの太郎丸。あんたみたいなチビ(ってレベルじゃないけど)が助けに来たってどうしようも…あ、この妖怪(?)も笑ってるし。

「ぼくを~~~バカにするなーーっっ!」
と、太郎丸が叫んだ瞬間。ボンッと音とともに太郎丸が大きくなって(!?)、ふしぎな力であっという間にバケモノを消し去ってしまった。
ううん、それよりも、もっと重要なのは…なに、この、すごいイケメン!?この素敵な彼とあの食欲魔人のチビが同一人物!?

一通り騒ぎが落ち着いた後で、英語教師のリック先生から聞いた話はこうだ。
どうやらたろ(太郎丸のことね)は妖精の国―グレートブリテンの地下から、山田村から要請を受けてリック先生とともにやってきたらしい。目的は、欧米から山田村に流れ着いた邪悪な「闇の一族」を闇の中に送り返すこと。それも村を守るためだけじゃなくて、人目を忍んで暮らしてきた日本の妖怪を絶滅から守るためなんだって。
…にわかには信じがたい話だけど、こうして実際に助けられた以上信じないわけにはいかない。そしてそれ以上に、私はあの伸縮自在の無垢で優しい王子様が…好きになっちゃったみたい。
太郎丸は自分の意思では大きさを調節できないようで、ずっとあのかっこいいたろのままではいられないみたいだけど、ちびたろもあたしに好意を寄せてくれてるみたいだし…ちびたろも見た目は抜きにしても中身はちゃんと優しいたろだし…。ああ。

こうして、あたしの報われるかどうか見当もつかない恋は、オバケとのカントリーライフとともに幕を開けたのだ。


第9話 : ナミダの東京 ~ 第13話 : まじかるみすてりーつあー

数え切れない怪奇現象にも(不本意ながら)慣れてきて、たろとの仲もほんの少しずつだけど深まってきた(と信じたい)ある日のこと。このド田舎の中学校にまたしても転校生がやって来た。
藤野みちる。見てくれは気の強そうなお嬢様。だけど…こいつ、初見でちびたろを見ても驚かなかったどころか、「王子様」とか言っていきなりキスしやがった!まさか、太郎丸の正体を知っているの!?
それもそのはず、この女の正体は闇妖精(ダークエルフ)の王女で本名はチルルというらしい。白妖精の王子である太郎丸とは表裏一体の関係で、リック先生でも手出しができないみたい。いわば「必要悪」ともいえる存在だからこそ、除外することはできないんだって。
チルルはそれを分かっているのか、学校でもプライベートでもやりたい放題し放題。しかも自分がたろを好きだからといって、ことあるごとにあたしに嫌がらせをしてくるし!とはいえ、相手は魔法を使う人外だし(たろもだけど)、まともにやりあってもあたしに勝ち目は…

そんな風に悩んでいた頃、渡りに船ともいえるようなニュースが飛び込んできた。
中学生の青春・修学旅行。なんとこの学校では田植えで忙しい春ではなく、稲刈りが終わった秋のこの時期に行うんだって(なにこの学校)。それも、行き先はあたしのホームグラウンドである東京!こりゃ、地理に詳しいあたしがこの女よりも断然有利!この機会に一気に差をつけるチャンスだわ!!


というわけで気合十分、田舎者一同(なんか余計なのも憑いてきた)で東京にやってきたんだけど…そのときになって重大な問題に気がついた。
太郎丸と一緒に旅行に来たのはいいんだけど、あろうことかちびたろの姿でやってきてしまったのだ。たろは自分で大きさを調節することができない。唯一、ミズタマダケというキノコの大きくなる側を食べれば元の大きさに戻れるのだけど、あいにく今日は持ってきていないみたい。このままの姿で誰かに見つかったら、実験材料になるか都市伝説になるか…

「あら、あたし持ってるわよ」
駅のロッカーの陰に隠れて話していたあたし達に話しかけてきたのはチルルだった。そういえば、この子もあのキノコを持ってたんだっけ。
チルルはどこからともなくミズタマダケを取り出し、大きくなるほうのかけらをちびたろに与える。一瞬でたろの姿は大きくなって―そのまま饅頭を買い食いするために走って行っちゃった。ふう、なにはともあれ助かった。

「あ…あの、ありがとう、チルル……」
あたしがお礼を言おうとして振り向いた―そのときだった。チルルはいきなりあたしの後ろに回りこんで、手に持っていたものを口に放り込んできた!おもいっきり口をふさがれて、あたしはおもわずそれを飲み込んでしまう。確か、さっきまでチルルが手にしていたのはあのミズタマダケ。大きいほうをたろにあげたということは!?

―意外というべきか、案の定と言うべきか。しゅるしゅる、という音とともにあたしの身体は小さくなっていき、最後にはチルルの足首ほどの大きさしかなくなってしまったのだ。

「うふふ。あらーーずいぶんとかわいくなったことね」
「チルル!何すんのよっ、元に戻してよ!」
あたしはチルルの足元で飛び跳ねながら叫ぶ。
「いやよ。大体あなたの考えていることくらいあたしにはとっくにお見通しなの。でも悪いけどあたしの方が何枚も上手だったってことよね……」
そういってチルルがぱちんと指を鳴らすと―なんとあたしの姿に変身した!
「というわけで、王子様とデートするのはこのあたし。あなたはそーやって迷子にでもなっててね。じゃーねっ」

チルルが走り去っていくのをあたしは眺めることしかできない。第一、この小さな姿では移動すらできないし、最悪踏み潰されるだけだ。なんとか近くを歩いていたたろの足にしがみついて首元まで登ったけど、それに気付いたチルル(腹が立つことにあたしの姿だ)に払いのけられてしまった。地面に投げ出され、誰かに踏み潰されそうになるあたし。なんとか避けたけど、このままじゃ…!

そんなことをしているうちに、修学旅行のバスは次の目的地へ向けて出発の準備が整ったようだ。もし乗り遅れたら間違いなく置いていかれちゃう!
と思ったら、偶然にももう一人乗り遅れた男子がいたみたい。リック先生には川田とか呼ばれてたけど、この際誰でもいいや!すぐさま足に飛びついて、なんとか一緒にバスに乗り込むことができた。―クラスにこんな男子いたっけ?顔はそこそこいけてるけど、話し方が妙にナルシストっぽいというか、背中の甲羅と頭の皿が…あ、こいつ河童か。
そのまま腰のあたりまでよじ登ったんだけど、川田が座席に腰掛けたときに潰されかけて…あたしに気付いたみたい。でもよかった、これでなんとかなる!

ところが。この川田とかいう男、「太郎丸にあたしのこと知らせて」って頼んだのに、いきなり断りやがった!?
「悪いが太郎丸は俺様の永遠のライバルでな…そうむざむざと奴にばかりおいしい目は見せられないということだ」
な、何?なんなのこいつ!?
「いーから早く話つけてよっ、でなきゃ、あたし元のサイズに戻れないじゃない」
「ほほう…じゃあこうしようじゃないか。きみが元の大きさに戻れた時、この俺様の女になると約束したら、太郎丸に話をつけてやろう」
…ダメだ。このジャイアニズム全開の男になに言っても無駄だわ…
「いーよもうあんたには頼まないから…あっちょっと、何すんのっ」
「その体ではたして俺様から逃げられると思うのか?生きたお人形さんとして存分にかわいがってやるとしよう」
―かくして、あたしの修学旅行はこのいかれた男と一緒に過ごす羽目になってしまったのだ。

浅草、新宿、原宿…本当ならあたしがたろと一緒に回るはずだったスポットも、小さなあたしに出来るのは川田に捕まったまま眺めることだけ。ごはんもおにぎりサイズの米つぶを誰にも気付かれずに食べただけだし、なんでこんなことに…
しかも夕飯のあとは川田に男湯(!!)に連れて行かれ、人知れず洗面器のお湯に浸かることに。途中で浴場にたろが入ってきて―え、たろ、全裸!?い…いけない見ちゃ!ああでもでもっ、ちらっと―とかやってたら…のぼせた。

目が覚めたら一応川田が介抱してくれたみたいで、あたしはハンカチとタオルで作られた簡易なベッドに寝かされていた。
「って、ここ男の子の部屋じゃない!もういやあ、こんなの屈辱だわーーっ!」
などと叫ぶあたしの声になど川田は耳を貸さず。そっぽを向くとそのまま眠ってしまった。

何人の男子がこの部屋で寝ているのか、暗くなった室内にいくつものいびき声が聞こえる。あたりを見回すと、たろもこの部屋で寝ているみたい。…ちょっとそばに行ってみよう…
布団の上を走って、たろの顔の近くまで来てみる。顔だけでも、いまのあたしよりもずっと大きい。
たろ、と呼びかけて頬をぺちぺち叩いてみたけど―起きないよね。なんせ欲望まっしぐらだもんなあ。
ま、いいや…朝までここにいたらきっと気付いてくれるわ。

そうしてたろの眠る布団の近くで夜を明かそうと決めたときだった。いきなり部屋のふすまがスッと開いて、誰かが入ってきた。暗闇の中でも分かるその姿は―「あたし」だった。
チルル!?こいつ、こんな夜中に男子の部屋になんの用が…
…て、これはまさか、いわゆる、夜這いってやつ!?
このマンガの経緯はひどく複雑だ。
最初は1996年、白泉社のララ(DX)に「ラブリー百科事典」が連載され、そのまま第2巻までが花とゆめコミックスとして発売された。しかしこの作品は完結しないうちに休載となり、残念ながらそのまま再開することは無かった。
ところが、2001年に作者の岡野史佳 氏が白泉社の専属を離れた後、エニックス社の月刊ステンシルにおいて「ラブリー百科事典~極東フェアリーテイルズ~」の連載が開始。キャラクターの設定等を一部引き継いだ上での完全リメイクとなった。
だが。連載していた月刊ステンシルがさまざまな事情により2003年をもって休刊の憂き目にあい、今度はガンガンパワードで続きを連載するという事態に。一方で作者は大病を患い入院、休みを挟みつつも連載を続けていたのだが、こちらも完結しないまま休載してしまったのである。
トドメといわんばかりに、2002年に発行された極東フェアリーテイルズの第1巻の発行所はエニックス社だが、2003年に発行された第2巻の発行所はスクウェア・エニックス社となっている。…そういえば合併したのこの時期だったっけ。
ということで、このコミックスには花とゆめコミックスで出版された旧版(未完)と、それをもとにステンシルコミックスでリメイクされた新版(未完)の2つの版が存在するのだ。正直言って、調査するのが大変でした…

背景はともかくとして、マンガ自体は旧版/新版ともにかなり面白い。私自身がこの作者のファンなのであまりフェアな評価ではないが、少女マンガタッチでのギャグとしては傑作の部類に入ると思う。リメイクにあたり、旧版を踏襲したシーンやキャラクターが登場するが、新版だけ読んでも問題ない構成になっている。ちなみに、旧版には手のひらに乗るほどの大きさの雪女がちょこっと登場する以外はサイズ要素が希薄。

ストーリーのプロットとしては、ゲゲゲの鬼太郎を想像すると分かりやすいかもしれない。時代錯誤と思えるほどの日本の田舎に暮らす良いオバケ(妖怪に非ず)の生活が、外国からやってきた悪いオバケ(悪魔に非ず)に脅かされているところを、イギリスからやって来たゴーストハンター(スイーパー?)の二人組が守るという筋書きだ。
鬼だろうが河童だろうが天狗だろうが当たり前のように生活しているし、トロールやイエティや狼男が当たり前のように悪さをしにやってくる。その異形の者どもも基本的にデフォルメされて描かれており、怖さや悍ましさとは一切無縁の可愛らしい姿だ。特に旧版ではこの傾向が強く、イエティとかはムッ○にしか見えないぞ。

ヒーロー役の太郎丸が普段は30センチのちび形態を取っているというのがこのマンガの根幹といえる部分なのだが、こちらは小人というよりかは2頭身の人形のような描かれ方をしている。分かる人は、ケロケロちゃいむのアオイを想像すると近い…かも。
主人公の乃亜は「都会の女の子」を強調したキャラクターであり、イケメン形態は好きだけどちびのほうはご遠慮願いたいというわがままな女の子。でもちびたろでもやっぱり中身は優しくて…という心の動きが主軸。
ぶっとんだクラスメイト・かすみのキャラも立っており、読んでいて飽きない良作。できればもっと連載が続いて欲しかったなあ。

さて、縮小要素についてだが、あらすじに書いたとおり、第2巻の修学旅行の話で主人公の乃亜が小さくなる。大きさは川田が言っている通り人形程度か。そのまま川田に気付いてもらえるのかと思いきや、半ば拉致されるような形で修学旅行に同行する形となる。
一応、小さくなるシーンや通行人に踏まれそうになるシーンはあるが、描写は基本的にあっさり。むしろ、川田にいいようにされているほうがいろいろと想像できて良い感じ。夕食のプレートにちょこんと座ってご飯つぶにかぶりつくシーンとかが可愛らしい。
ただ主人公の性格補正もあってか、小さくなったからといって行動が制限されるというよりかは、誰かの庇護を必要とするシチュエーションに陥るという見せ方が強い印象を受けた。
ちなみに、第10話の扉絵も人形サイズの乃亜がケーキセットの前でイチゴにかぶりつく構図になっている。

実はあらすじには第9話の部分しか書いていない(長くなるので)が、第10話以降は乃亜が太郎丸のもとへと戻る展開になる。ところが今度は元に戻るキノコが無くなってしまい、いつものメンバーと協力してそのキノコを奪ったと思われる魔物を追いかける…というバトルものの展開に変わる。
第10話以降も、太郎丸の胸ポケットで保護されたり、一時的に空を飛ぶために妖精の羽を与えられたりと見所は多い。が、ほかのメンバーの活躍に押されて必然的に乃亜の出番が少なくなるのがちょっと残念。バトルもののサガか。
実質的に、新版の第2巻はほとんど乃亜が小さいままで話が進行することになるかな。

ちなみにデスが。この修学旅行編、回を追うごとにどんどん話が暴走していきます。途中から太郎丸が真の姿を解放して空を飛ぶようになったり、おキツネさまが巨獣に変身して街を走り抜けたり、かすみが怪しげな呪術で悪魔の動きを封じたり、果てはチルルが裏切った挙句にドラゴンを召還して首都制圧しようとしたりするけど、これは単なる修学旅行を題材にした少女マンガデス。きっとそうに違いない。

ともかく、縮小パートに興味があっても無くても、少女マンガ好きにはオススメできる作品。前述したとおり、入手がやや困難な点が少し悩みどころかな。
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